親が遺した尺八・琴・三味線、和楽器の買取事情

親が遺した尺八・琴・三味線、和楽器の買取事情

「母のお琴が、和室の壁に立てかけたままなんです。大きすぎて、どこに相談すればいいのかも分からなくて」。実家の片付けを始めた方から、こんな声をよく聞きます。尺八や三味線も同じで、「父はいい物だと言っていたけれど」と言いながら、楽器の袋を開けられずにいる方が少なくありません。

こんにちは、音羽かなでです。音楽教室でピアノ講師を12年しておりました。ピアノの先生なのに、講師時代には保護者の方から「祖母の三味線が出てきたんですが、先生、分かりますか」と相談されたことが何度かあります。最初に相談を受けたときは何も答えられず、取材でお世話になっていた工房に電話をして「撥が象牙かもしれないから、勝手に売らないように伝えて」と教わりました。和楽器は私の専門ではありません。ここに書くのは、工房の取材や相談を受ける中で教わったことを、辞典や、国・公的機関が公開している情報で確かめた範囲の話です。

和楽器を手放すときには、ピアノやギターにはない注意点がひとつあります。三味線の撥(ばち)や琴爪には象牙やべっ甲が使われていることがあり、これを売るときには法律のルールがかかるのです。この記事では、査定で見られるところと、手放す前に家族で確かめておきたいことを順にお話しします。

「値がつかない」も「高価なはず」も、半分ずつ当たっています

和楽器の相談は、「どうせ値段はつかないでしょう」と最初から諦めている方と、「高かったはずだから」と期待している方に、ほぼ分かれます。どちらの見方も、半分は当たっています。

厳しいほうの話から始めます。京都女子大学の前﨑信也さんらが発表した和楽器の持続可能性についての研究発表では、業界団体(全国邦楽器連合会)の調べとして、1970年に年間18,000丁あった三味線の生産数が2017年には3,400丁に、箏(こと)も25,800面から3,900面に減ったと紹介されています。同じ発表では、コロナ禍で公演の中止が相次ぎ、作り手の廃業や演奏家の引退が増えたことにも触れています。新しく作られる数がここまで減っているということは、新しく弾き始める人もそれだけ少ないということです。中古を探す人も多くはないので、お稽古用に広く出回った普及品は、状態がよくても値がつきにくいのが実情です。

一方で、政府広報オンラインに載っている東京の琴職人への取材記事には、琴はべっ甲や象牙、着物地の装飾がほどこされるなどして、数万円のものから1000万円を超えるものまであると書かれています。材質や作り手の腕で音も値段もまったく違ってくるのはバイオリンと同じ、という職人さんの言葉も紹介されていました。同じ「お琴」でも、値段の幅が何百倍もある楽器なのです。

つまり和楽器の値打ちは、見た目ではほとんど判断できません。古びて見えても良い材の一面かもしれないし、立派な袋に入っていても稽古用かもしれない。相場は時期と状態で変わるので、決めつける前に、和楽器を扱い慣れた人に一度見てもらうのがいちばんの近道です。購入時の領収書や、作り手の名前が入った書き付けが残っていれば、それも見てもらう材料になります。

尺八・琴・三味線、査定で見られるところ

和楽器の査定では、楽器ごとに見られる場所が違います。工房や相談の場で教わったことを、辞典や公的な資料の記述で確かめたうえで表にまとめました。細かな判断は専門の店にしかできないので、ご自宅では「どこを見られるのか」を知っておくくらいで十分です。

楽器査定で見られやすいところ象牙・べっ甲が使われていることがある部分
尺八作り手の銘(焼印や刻印)、竹の割れと修理跡、中継ぎのゆるみ歌口(水牛の角のことも多い)
琴(箏)本体の桐の木目、装飾、割れや傷琴柱(ことじ)、琴爪、本体の飾り
三味線棹の材(紅木・紫檀など)、胴の作り、皮の状態撥、駒、糸巻き

尺八は、1尺8寸(約54.5センチ)を標準とする竹の笛で、真竹の根元に近い部分から作られます。竹は乾燥や急な温度変化で割れやすく、割れや修理の跡は査定でしっかり確かめられます。持ち運びのために上下二つに分けられる「中継ぎ」の作りが多いので、つなぎ目がゆるんでいないかも見られるところです。管の内側に下地を塗って漆で仕上げた「地塗り」と、竹の内側をそのまま生かした「地無し」という作りの違いもあり、このあたりは作り手の銘と合わせて専門の店が判断します。エアコンや暖房の風が当たる場所に置いているなら、査定の日まで風の来ない部屋へ移してあげてください。

琴は、本体だけで180センチを超える大きな楽器です。先ほどの職人取材には、琴の木目は年老いた木の波打った模様ほど味があると評価される、という話も出てきます。琴柱や本体の飾りには、かつて象牙やべっ甲、鹿の角などが使われ、いまはセラミックやプラスチックに置き換わっているので、古い琴ほど規制素材の部品が残っている可能性があります。指にはめる琴爪も、象牙のものとプラスチックのものが広く使われているので、小箱や巾着に入ったままの爪を見つけたら捨てずに残しておいてください。大人ひとりで車に積むのは難しいため、出張で査定してくれる店を選ぶと運び出しの心配が減ります。

三味線は、棹に紅木(こうき)や紫檀、胴に花梨を使うのが一般的です。中古の三味線の説明では、胴の内側に「綾杉(あやすぎ)」と呼ばれる彫りがあるかどうかもよく書き添えられています。棹は持ち運びのために三本に分かれる「三つ折れ」の作りが多いので、どれか一本が別の場所にしまわれていないか、家の中を探してみてください。皮は猫か犬のものが張られていて、破れているのを見て慌てる方もいますが、皮は年数や湿気で傷む部分で、張り替えながら使い続けるものです。破れているだけで諦める必要はありません。撥や駒は象牙で作られたものも多く出回っていて、ここから先の話につながります。

象牙・べっ甲の部品があるときに、売る前に確かめること

ここからが、冒頭でお話しした和楽器ならではの注意点です。象牙は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)によって、国内での取引が原則として禁止されています。ただ、家族の遺品を持っているだけで罪になるわけではありません。何が自由で、どこから手続きが要るのかを整理します。

持っておくこと、相続することは自由です

環境省の象牙の国外持ち出し規制について(一般の方向け)には、自分で持っておくだけの所有には制限がないこと、所有者が亡くなって相続として引き継ぐ取引は例外として認められていることが書かれています。お父さまの尺八や、お母さまの琴爪を受け継ぐことに、届け出は要りません。

遺品整理で一度だけ売るなら、先に国へ問い合わせを

売る・譲るとなると話が変わります。環境省は、象牙を「全形牙」と、それ以外の「カットピース・製品」に分けて扱っています。全形牙は、ゆるやかに弧を描いて根元から先端へ細くなる、いわゆる象牙の形をとどめたもので、撥や琴爪、駒は製品の側に入ります。製品を事業として売ったり譲ったりするには「特別国際種事業者」としての登録が必要で、ここでいう事業とは反復継続して行うことを指し、個人か法人か、有償か無償かは問われません。

では、遺品を一度だけ手放す場合はどうなるのか。環境省の象牙(全形牙)・象牙製品の取引制度についてに載っている手続きの流れ図では、事業ではなく「相続した遺品の整理のため1回限り販売・譲渡を行う場合」などは、事前に経済産業省の製造産業局生活製品課に問い合わせることになっています。窓口の電話番号も同じページに載っているので、撥1本であっても、売る前に確認しておけば後で不安が残りません。

買い取る側の店は、象牙製品を扱うなら登録を受け、登録番号などを表示する義務があります。店頭やホームページに番号が出ているかを、査定を申し込む前に確かめてください。なお、楽器と一緒に牙の形をとどめた象牙(彫刻をほどこしたものも含みます)が出てきた場合は、一本ごとの登録が要る別の手続きになり、2019年7月からは第三者の証言に加えて放射性炭素年代測定の結果などの裏付けも求められています。

フリマアプリと海外への発送は避けましょう

象牙の部品がついた和楽器を、ご自分でフリマアプリに出すのはやめておきましょう。フリマアプリやネットオークションには、象牙製品の出品を規約で制限したり禁止したりしているところがありますし、何度も出品を重ねれば、個人でも事業とみなされるおそれがあります。

もうひとつ、象牙製品は国内でルールを守って買ったものでも、国外への持ち出しが厳しく禁止されています。海外に住む親戚に形見として送る、海外の人に売る、といったことは考えないでください。

べっ甲は、タイマイというウミガメの甲羅です。こちらは象牙とは別の枠組みで、原料の甲羅や端材を商売として扱う業者には国への届け出が義務づけられていますが、撥のような完成品はその対象外とされています。ただ、国際取引がワシントン条約で規制されている点は象牙と同じなので、海外とのやりとりは避けてください。

売る前に、次の点を確かめておくと安心です。

  • 撥・駒・糸巻き・琴柱・琴爪・尺八の歌口が、何でできているかをメモする
  • 象牙かどうか見分けがつかない部品は、自分で判断せず店に見てもらう
  • 遺品整理で一度だけ売るなら、事前に経済産業省の生活製品課に問い合わせる
  • 買取店が登録番号を表示しているかを確かめる
  • フリマアプリへの出品と、海外への発送はしない

迷ったときは、買取店か環境省の窓口に確認してから進めてください。制度の細かな解釈まで、私たちが自分で判断する必要はありません。

手放す前に、家族と決めておきたいこと

相続人が何人かいる場合、遺産を分けるまでは、楽器もその全員の共有です。管楽器の売却前チェック。サックス・トランペットの査定ポイントでも少し触れましたが、きょうだいに相談せずに売ってしまうと、あとで気持ちのしこりが残ります。和楽器は「母が若いころから習っていた」「祖母から受け継いだ」といった来歴を持つことが多いので、なおさらです。

話し合いの場で提案してみてほしいのが、形見として小さな部品だけを手元に残す方法です。琴爪は弾き手の指に合わせて使い込まれたもので、撥には持ち主の手の跡が残っています。先ほどお話ししたとおり、象牙のものでも持っておくことに制限はありません。本体は次の弾き手へ、爪や撥は家族のもとへ。そんな分け方なら、手放す寂しさも少し和らぐはずです。

親御さんがお稽古に通っていたなら、当時の先生やお稽古仲間に声をかけてみるのもひとつの方法です。楽器を探している生徒さんがいれば、知っている人の手で鳴らしてもらえます。

査定に出すまでの扱いも、家族で決めておきましょう。撥や琴柱、琴爪、駒、楽器の袋やケースは一か所にまとめ、購入時の書類や、象牙製品に貼られた認定シールがあれば一緒に保管します。汚れが気になっても、薬剤で拭いたり、ゆるんだ糸を締め直したりはしないでください。乾いた柔らかい布で埃を払う程度にとどめ、あとは専門の手に任せるほうが、楽器の状態を正しく見てもらえます。店に問い合わせる前に、楽器の全体と銘、撥や爪をスマートフォンで撮っておくと、電話やメールの段階で話が早く進みます。

まとめ

親が遺した和楽器を手放す前に、確かめておきたいことをお話ししてきました。

  • 和楽器は弾き手が減り、普及品は値がつきにくい一方、材と作り手しだいで高額なものもあり、見た目では判断できない
  • 尺八は銘と割れ、琴は木目と装飾、三味線は棹の材や皮の状態が見られる
  • 象牙の撥や琴爪は、持っておくことも相続することも自由
  • 遺品整理で一度だけ売るなら、事前に経済産業省の生活製品課へ問い合わせる
  • 買取店の登録番号を確かめ、フリマアプリへの出品と海外への発送はしない
  • 相続人の合意を取り、形見として爪や撥を残す分け方もある

私は和楽器を弾けませんが、相談を受けるたびに、どの楽器にも持ち主が通ったお稽古の時間が染み込んでいると感じてきました。まずは楽器の袋を開けて、撥や爪、琴柱が何でできているかをメモしてみてください。そのメモを持って家族に連絡し、話がまとまったら、和楽器を扱い慣れた店に査定を頼む。この順番で進めれば、迷うところはほとんどありません。